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国税庁による「キャッシュレス・消費者還元の仕入税額控除の考え方」が公開

2019年11月に、国税庁から軽減税率に関する事業者向けの新たな資料が更新されました。
資料のタイトルは「事業者の皆様へ(~区分経理から消費税申告書の作成まで~)」というもの。
内容は、区分経理や請求書等の保存に関する実務のポイントをまとめた資料ですが、この最終頁に「即時充当によるキャッシュレス・消費者還元に係る消費税の仕入税額控除の考え方」という資料が編集されています。
これは、軽減税率導入と同時にスタートした「キャッシュレス・消費者還元事業」に関する資料です。
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この事業ではポイント還元の方法が統一されていません。
そのため、ポイント還元を受けた際の経理の方法をめぐって、現場でやや混乱が生じています。
混乱を招いていた原因の1つが、即時値引きのような扱いを受けた場合です。
その場で支払う金額が減っているわけですが、この還元ポイントをどう処理するかというと意外と難しいのです。
今回は、国税庁の「即時充当によるキャッシュレス・消費者還元に係る消費税の仕入税額控除の考え方」の内容を踏まえ、ポイント還元を受けたときの仕訳について考えてみたいと思います。

参考:国税庁HP
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/index2.htm

■キャッシュレス・消費者還元事業のしくみ

キャッシュレス・消費者還元事業とは、この事業の加盟店で、お客さんがキャッシュレス手段による決済を行った際に、購入した商品の2%か5%を、ポイント還元してもらえるというものです。2020年6月末まで行われます。
増税による消費の落ち込みを防ぐことやキャッシュレス決済の普及を目的とした国の事業で、加盟店には、還元ポイントの原資が補助されています。

■即時充当・ポイント利用(値引き)による仕入税額控除の考え方

今回、国税庁から仕入税額控除の考え方として示されたのは、
・即時充当
・ポイント利用(値引き)
の2形態における「課税仕入の額」についてです。
即時充当とは、1,100円の買い物をした時、(2%還元であれば)22円分のポイント還元を即時に代金に充当することによって、1,078円で決済ができるものです。
コンビニなどで見られる還元方法になります。
これに対し、ポイント利用とは、商品を購入した際のポイント還元が「値引き」とされている場合です。
還元か値引きかは、レシートの表記から判断してよいとされています。
どちらもその場で支払う金額が減るだけで、購入者からすれば感覚的にはまったく同じものになります。
しかし、この2つは課税仕入となる金額の考え方が異なります。
<課税仕入に係る支払対価の額>
・即時充当・・・商品対価の合計額
・ポイント利用・・・値引き後の金額
具体例で確認しましょう。
【例】
ペットボトルのお茶 3本 486円
ボールペン 10本 1,100円
合計 1,586円
(8%対象 486円)
(10%対象 1,100円)

まず、即時充当であれば、仮に31円(1,586円×2%)のポイント還元を受けた場合、実際の支払い額は1,555円(1,586円-31円)になります。
ポイント利用(値引き)も、支払い額は同じです。
しかし、即時充当の課税仕入は1,586円、ポイント利用の課税仕入は1,555円になるということです。
国税庁の資料の内容はここまでとなります。
この情報から、仕訳を考えてみます。

即時充当の仕訳

即時充当では、商品対価の合計額が課税仕入になりますので、仕訳は次のようになると考えられます。
(お茶は会議費、ボールペンは消耗品費とします。)

【即時充当】

借方 金額 貸方 金額
会議費 486 前払金(※1) 1,586
消耗品費 1,100
前払金(※1) 31 雑収入(※2) 31

(※1)は、キャッシュレス決済の手段によります。
コンビニ等でよく使われるプリペイドカードであれば、金銭をチャージした時の勘定科目の取崩しとします。(仮に「前払金」にしています)
もし経営者個人のプリペイドカードで立て替えたのであれば「役員短期借入金」、従業員が立て替えたのであれば「未払金」を使用します。
(※2)の雑収入の課税区分ですが、
・国庫補助金を財源としたポイント付与であること
・資産の譲渡等の対価として支払うものでないこと
から不課税になります。
税抜経理方式にすると、次のようになります。

【即時充当】

借方 金額 貸方 金額
会議費 450 前払金 1,586
仮払消費税等 36
消耗品費 1,000
仮払消費税等 100
前払金 31 雑収入 31

ポイント利用の仕訳

続いて、ポイント利用(値引き)の仕訳ですが、値引き後の金額が課税仕入になりますので、次のようになると考えられます。

【ポイント利用】

借方 金額 貸方 金額
会議費 476(※3) 前払金(※1) 1,555
消耗品費 1,079(※3)

(※3)8%取引と10%取引があるので、31円を按分して割り振っています。
<計算式>
476円≒486円-(31円×486円/1,588円)
1,079円≒1,100円-(31円×1,100円/1,588円)

税抜経理方式の場合は、次のようになります。

【ポイント利用】

借方 金額 貸方 金額
会議費 441 預け金 1,555
仮払消費税等 35
消耗品費 981
仮払消費税等 98

ところで、値引き後の金額を課税仕入とする考え方は、通常のポイント利用による支払いにも使われています。
ポイント利用の仕訳に明確なルールはないのですが、消費税でいえば、自社発行のポイント利用時に値引きを受けた時は、差額支払金額の対価が課税仕入になるという扱いが行われていると思います。
これについては、国税庁HPに掲載されている「マイレージサービスに代表されるポイント制に係る税務上の取扱い」が参考になります。
https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/58/01/hajimeni.htm

なお今回行った仕訳は、国税庁が示した仕入税額控除の考え方に基づき、消費税のルールで行った仕訳です。
この仕訳だと、たとえばポイント利用で資産購入をしたときに正しい資産額が貸借対照表に表示されないということが起こります。
このあたりは、会計上の重要性の原則で判断が必要です。
しかし期間限定の取り組みですし、ポイントの額は通常少額ですから、この処理が問題になるケースは少ないと考えられます。

■経理が難しいときは税額計算の特例を

最後に、軽減税率と標準税率を分けることが難しい時の救済といえる「税額計算の特例」をご紹介します。
限られた期間ではありますが、2つの税率を区分することが困難な中小事業者(※)は、簡易な計算方法を選択できるようになっています。
(※)前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下の事業者

売上税額の計算の特例

軽減税率(8%)と標準税率(10%)の売上げが混在する事業で、1つ1つを区分することが困難な中小事業者は、一定の割合を軽減税率の売上げとみなして税額を計算してもよいという特例です。
割合は、仕入れに占める軽減税率の対象品目の割合や、10営業日の売上げから算定した割合などを使うことができます。
2019年10月から4年間、選択することが可能です。

仕入税額の計算の特例

仕入れの税率を区分することが困難な中小事業者です。
売上げから算定した軽減税率の対象品目の割合を使うことができます。
2019年10月から1年間、選択することが可能です。

簡易課税制度の事後選択の特例

仕入税額の計算の特例の代わりに、簡易課税制度を選択することも可能です。
こちらは業種ごとのみなし仕入率で仕入税額控除を計算する、おなじみの制度になります。
通常、この制度を適用するには課税期間が始まる前に税務署に選択届出書を提出しなければなりませんが、特例では、課税期間の途中でも選択することが認められています。
2019年10月1日から2020年9月30日までの日を含む課税期間中であれば選択可能です。

■まとめ

今回は国税庁の資料を中心に、キャッシュレス・消費者還元の仕訳を考えてみました。
課税事業者の経理の負担をなくす特例も登場していますが、早く慣れてしまいたいですね。
消費税などの経理でお困りの際は、税理士にご相談ください。

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